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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)51号 判決 1974年5月28日

原告 小松原健

右訴訟代理人弁護士 戸毛亮蔵

被告 大阪市長 大島靖

右指定代理人 森三郎

<ほか二名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  原告が本件土地上に本件建物を建築所有していること、および請求原因(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二  制限令失効の主張について

制限令は、昭和二一年勅令三八九号をもって制定された「戦災都市における建築物の制限に関する勅令」が昭和二四年政令三六〇号によって改題されたものであるが、これは戦災都市における建築物の制限につき旧都市計画法施行令(大正八年勅令四八二号)一一条および一一条の二などの特例を定めたものであって(制限令一条)、旧都市計画法一一条および一一条の二などの規定による個別的委任に基づく委任命令であることは法文上明白である。

旧都市計画法一一条および一一条の二は、「建築物に関する制限」につき政令に委任した規定であるが、ここにいう「建築物に関する制限」とは、特定の地域内において一般的にもしくは特定の態様の建築を規制し、規制に違反する建築物の出現、存立を許さないことを意味するから、この委任に基づく政令が、その地域内におけるある種の建築を許容もしくは禁止する旨およびその種類、形状その他の要件を定めるだけで、これに違反した行為に対処する手段を欠いていたとすると、片手落のそしりを免れず、法律の所期する制限の実効をおさめえないことになるのであり、規制に違反した者に対して原状回復を命じうる規定を設けるのは、建築物の制限の実効を確保するために欠くべからざることである。したがって、制限令五条の原状回復命令の規定は旧都市計画法による委任の範囲をこえるものではないと解すべきである。

ところで、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」一条は、法律の委任に基づかないいわゆる独立命令、緊急命令の如きものにつき、昭和二二年一二月三一日かぎり失効すべきことを定めたものであり、法律の委任に基づく委任命令は日本国憲法上も容認されるので(憲法七三条六号)、「日本国憲法施行の際現に効力を有する勅令の規定の効力等に関する政令」により、引きつづき政令と同一の効力を有するものとされている。制限令は右に述べたように適法な委任命令であるから、憲法施行後は政令と同一の効力を与えられ、土地区画整理法施行令の施行(昭和三〇年四月一日)により廃止された後も、同令付則七条の経過規定により、なお従前の例によることとされる範囲内において存続し、適用をみることとなっているのである。

よって、原告の制限令失効の主張はこれを採用することができない。

三  憲法二九条三項違反の主張について

原告は、被告が本件土地建物の所有者である原告に対し何らの補償もなく原状回復を命ずるのは、憲法二九条三項に違反すると主張する。

制限令による建築物に関する制限は、本建築物と仮設建築物とを区別し、前者についてはわずかな例外を除き原則として建築を禁止し、後者については一定の要件をみたすものにかぎり建築許可を与えるというものであって、その地域内の土地の所有権(ないし利用権)に対して特別に課せられる制約であり、しかもそれはおおむね市街地であることからすると、この制約は決して軽微なものとはいえないことはたしかである。しかしながら、旧都市計画法、旧特別都市計画法に基づく土地区画整理は、都市計画区域内における土地の宅地としての利用を増進することを目的として行なわれるものであり(旧都市計画法一二条)、制限令は戦災都市におけるこの事業の円滑な遂行を期するため、土地区画整理施行地区内での建築行為に前述のような程度の制限を課し、事業遂行の障害を防止しようとしたのであって、これは戦災復興、宅地の利用増進という公共目的を達成するために必要やむをえない制限であると考えられるのみならず、土地区画整理が円滑に施行されれば施行地区内の土地は利用価値が増大し、所有者はその利益を享受できるのであるから、その過程における一時的な権利行使の制限について受忍を要求することには相当の理由があると解される。してみると、制限令に基づく建築制限による土地利用の制約は、財産権に内在する社会的拘束の現われとして、公共の福祉に適合するものであるから、憲法二九条二項により容認されるところであり、かつ宅地の利用増進という利益を得ることが期待される以上、同条三項による補償を要するかぎりでない。したがって、この建築制限に違反して建物を建てたときは、土地についての権原の有無にかかわりなく、建物の除去、土地の原状回復の責を負うべきであり、この場合自ら招いた損失について補償を要求できる理由がないことはいうまでもない。

四  以上に述べたように原告の主張はいずれも理由がなく、被告が、土地区画整理施行地区内に故なく(原告が制限令三条の許可を有しまたは同二条各号の事由に該当することの主張立証はない)本件建物を建築した原告に対し、制限令五条により本件原状回復命令を発したことは適法である。よって原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 石井彦寿)

<以下省略>

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